セミナー開催報告 ファッションデザインとテキスタイルの関係性

主催者ご挨拶

笠原 啓二

当機構では中小企業の経営課題を解決するために様々な支援事業を行っています。繊維については川中の製造事業者の自立化や、関連展示会などを支援してまいりました。
日本のテキスタイルが世界で注目されている今こそ、過去の優れた図案や素材の見本を体系的に集積させたアーカイブ整備の重要性を感じています。
一方、見本の集積や閲覧だけでは意味がなく、繊維産業全体の活性化に繋がるような、有効なデジタルアーカイブのシステム構築も検討しています。
また今後はセミナーと体験学習から成る体験的アーカイブ事業や産地ツアーにも力を入れていきたいと考えています。

後援者ご挨拶

間宮 淑夫

日本の繊維産業は長い歴史をもっており、そこで培われた織りや染の技術は世界でトップレベルを誇っています。
国内外の経済が厳しい状況の中、そうした優れた技術の散逸を防ぐと同時に、ソフト面での新たな付加価値を見いだしてビジネスを展開していくことが必要だと考えています。
若い力と古くからある技術がうまく組み合わされば、日本の繊維産業を再び活性化させる大きな力になるのではないでしょうか。そう言った意味でも、繊維のアーカイブ化は重要です。クリエイティブな活動にプラスを与える精神的な基盤を整備する事業として、国としてもサポートしていきたいと考えています。

講演内容

「今と未来のアーカイブ」 皆川明氏

私がミナペルホネンを立ち上げた95年頃のファッション業界は、とても短いサイクルでものが作られていました。しかしそれでは一過性で元来のクリエーションの価値から離れ、すぐに魅力のない物質になってしまいます。もっと長いスパンをかけて、人の内面と共鳴するようなもの作りであるべきだと思いました。
私は今作っているデザインが未来のアーカイブになるのだという気持ちで取り組んでおり、実際一度描いた図案を何度も生かしてきました。
自分が発表するデザインに対して強い情熱と自負を持つことは、クリエーターとしての大きな責任ではないでしょうか。またものを生むだけでなく、過去のアーカイブを整理することも重要です。日本の高度な技術力や応用力を再認識し、それをクリエーションに変換しなければ厳しい現状を変えることはできません。日本のテキスタイルの卓越した技術を継承し、さらに新しい視点を加えるという考え方でもの作りをしていく必要があると思います。

「アーカイブからのインスピレーション」 梶原加奈子氏

私は大学で織りやプリントを学んだ後、イッセイミヤケでのテキスタイルの仕事を経て、英ロイヤルカレッジオブアートに留学しました。そこではスポンサー企業との実際の商品化に数多く関わったほか、海外研修で現地のアーカイブを調査できたのは非常によい経験となりました。特にグアテマラの織物のアーカイブは強く印象に残り、私の今のデザインの源の1つになっています。
その後ロンドンのトレンド会社で、トレンドの仕組みやマーケティングについて多くを学びましたが、ロンドンではテキスタイルプリントの図案を生かしたブランドビジネスが盛んで、一つの図案が様々なプロダクトに落とし込まれているのを見てアーカイブの大きな可能性を感じました。産地のアーカイブを見に行くことは時間のかかる作業ですが、技術とイメージをコネクトしていく時に大きな手助けになります。
今は企画を展開するのにスピードを求められるため、アーカイブによる組織の作り方やヒントなどを積極的に取り入れています。

「布つくり、その発想と制作」 須藤玲子氏

NUNOは1984年に設立され、それ以来日本国内で布づくりを続けています。1993年にデザインした、羽を織り込んだ布地は、発想から制作までに約5年ちかい年月を費やしており、そのほかにも、銅線や、ステンレスのマイクロファイバー、和紙、トウモロコシを原料とするプラスチック繊維、大島紬の残糸、蚕が繭をつくる際に最初に吐き出す糸、キビソなど、様々な素材を使って布地をつくってきました。NUNOの奇抜ともいえる布づくりが可能なのは、日本の産地には、優れた染織技術を持った職人達が数多くいるからです。彼らのものづくりに対する真摯な情熱と卓越した技術が、NUNOの布づくりの原動力となっています。こうした技術者との出会い、工場での議論など、布をつくるプロセスは、私自身の大きな楽しみでもあります。テキスタイルはアパレルやインテリアの素材と捉えられがちですが、テキスタイルデザインにも強い主張があってもよいのではないかと思い、布づくりを続けています。

「産地を活かす」 宮本英治氏

日本の繊維産業は明治初期の製糸に始まり、戦後の高度成長期における好景気を経て、今の厳しい状況に至っています。今後はアパレルの動向が、繊維産業全体の浮沈を左右すると考えています。
一方で、現在のように変化の少ない服がファッションの潮流となっている中でテキスタイルが着目されています。特に日本のテキスタイルが高く評価されているのは産地活性化の大きなポイントになるはずです。日本には北から南まで約60の産地があり、独自のテキスタイルが根付いており、その多くは江戸開府以来各藩が産業育成に注力し、産地職人による特色ある織物を集積させてきたことに起因しています。皆さんも産地をもっと知り、活用して欲しい。デザイナーと産地そして縫製業が結集し純日本産のムーブメントを内外に起こすことが日本アパレルの活力になり繊維全体の活性化となると確信しています。更にデザイナーを目指す若人が飛躍できるよう、支援システムや教育の見直しも必要です。

「テキスタイルアーカイヴの必要性とクリエーション」 皆川魔鬼子氏

今、日本の財産であるテキスタイルのアーカイブ化が課題となっております。 私は仕事を始めたころ、地球上のどの民族も考える織り柄の原点である「縞」や「格子」を自分らしく作りたい、どのような柄が訴える力があるのか、日本発のコレクションの素材は何かを考えていました。「今までにない糸使い」「少し遠くても認識でき、近くで触れてみたくなる」「身体上で違和感なく、デザイナーが服にしたいと思える」「日本から提案しても日本を主張しない」という4点をポイントに、縞・格子をベースに素材を作ってきました。その際、テキスタイル文化の集積であるアーカイブがインスピレーションの源になりました。過去の財産である産地のアーカイブ見本を現在の視点でとらえて、時代の接点を求めると、新鮮なアイディアが生まれてきます。
トレンドを頼りに発注するのではなく、産地の得意とする素材が蘇り、発展することが次への財産につながります。また、美術館や資料館のアーカイブのデータには、学ぶべきテキスタイルが多くあります。テクノロジーの検証、ハードの保存、データベースなどがありますが、まず、既に存在している資料から学んで、クリエーションに役立ててはどうでしょうか。

ワークショップについて

「テキスタイル スピリット 原点との再会」では、皆川明氏、梶原加奈子氏の指導のもと、桐生産地で実際に布づくりをするワークショップを行います。セミナー終了後、応募者11名の中から、講師の方々による審査の結果、参加者4名が発表されました。早速、皆川氏、梶原氏とテキスタイルのイメージや今後の進め方などついて打ち合わせがありました。
布作りのプロセスとその布を使用し、製作した衣服は、2月に開催される「アーカイブとデザイン」展で、展示発表されます。

司会をつとめた

清水早苗

ジャーナリスト、クリエイティブディレクター
金沢美術工芸大学大学院、武蔵野美術大学、京都造形芸術大学 非常勤講師
'75年立教大学フランス文学科卒業、雑誌・広告のスタイリストを経て、ファッションエディターとして編集、カタログ制作などを手がける。一方パリ・東京コレクション等の取材を通して、衣服・デザインに関する記事を多数執筆。川久保玲に焦点をあてたNHKのテレビ番組では企画からインタビュー、制作まで携わる。「アンリミティッド;コム デ ギャルソン」編者。

セミナーを終えて

長時間にもかかわらず、多くの方にご来場いただきありがとうございました。講師の方々の“もの作りに対する志の高さ”に、感銘を受けた方も多いことでしょう。セミナーが、皆様のデザイン、クリエーションの刺激となれば幸いです。

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